つみたてNISAコラム

つみたてNISAの「三方よし」、信託報酬は制度スタート20カ月で大幅に低下

 つみたてNISA(少額投資非課税制度)がスタートして20カ月が経過した。口座数が127万口座を突破し、20代~40代の利用が3分の2を占めるほど若い世代に投資のきっかけを与えている。制度創設の狙いが概ね反映された成長をしているといえるだろう。「つみたて」を預貯金ではなく、投資信託で行うことが定着することを期待したいが、その点を推し進める上で重要な変化が、投資信託商品で起こっている。この変化は、おそらく制度創設の意図を超えて劇的に進んでいるといえそうだ。

先進国株式の最低信託報酬率は0.20%が0.11%に

 投資信託で起こっている劇的な変化とは、資産運用のコスト(反対からみると、資産運用会社の収益)である信託報酬の低下だ。商品カテゴリーによっては、制度創設からわずか20カ月の間に、当初から約半分の水準にまで低下したものもある。

 つみたてNISAは、累積投資契約という定期的な積立投資を前提として、投資成果にかかる税金を20年間にわたって無料にする制度。投資収益課税は税率が20%超になるため、これが徴収されない効果は大きく、積立期間が長くなるほど大きくなるため、長期投資を促す材料にもなっている。また、非課税投資金額は年間40万円であり、20年間継続した場合、合計で最大800万円を積み上げることができる。

 つみたてNISAは、投資対象となる投資信託について、厳しい制限を課している。主力となるインデックス投信については、対象となるインデックスを指定し、かつ、信託報酬率についても上限を設けた。国内型は年0.5%以下、国際型は年0.75%以下だ。アクティブ投信の信託報酬は、国内型で年1.0%以下、国際型は年1.5%以下と決められている。「国が信託報酬率まで決めているおせっかいな制度だ」という批判もあることは事実だが、信託報酬率に制限を設けたことによって、つみたてNISAの対象ファンドの中での信託報酬率の引き下げ競争が劇的に進むことになった。

 下記に、つみたてNISAが発足した2018年1月から現在までの投資カテゴリー別のインデックス投信の信託報酬率の変化を調べた結果だ。それぞれのカテゴリーで、最低水準の信託報酬率は、国内株式で当初(税込)0.17172%が0.1512%に低下。先進国株式では0.20412%が0.107892%にまで下がった。この信託報酬率の低下は、つみたてNISAを使った投資の効率を高める効果として働く。

つみたてNISA:信託報酬率(カテゴリー最低)の変化

costChenge(17.12-19.08).jpg

出所:モーニングスター作成


一般の投資信託と比較すると約5分の1の水準

 たとえば、全世界株式インデックスファンドの信託報酬率は、カテゴリ―平均(公募投信全体)で0.65%。つみたてNISA採用投信の最低手数料0.1296%は、ほぼ5分の1水準になっている。単純に年率平均5%(参考:外国株式の2001年度~2018年度の平均収益率は5.74%)で運用し、毎月3.3万円を20年間投資した場合、非課税で考えると、信託報酬が0.65%の場合の元利合計は約1,271万円だ。信託報酬が0.1296%の場合は約1,353万円で約82万円の差が出る。積立元本が792万円なので、82万円という差額は大きな違いといえる。また、毎月の積立金額と比較すると、24回分の差額なので、まるまる2年分の積立金を信託報酬率の差額だけで稼いだ計算だ。

 上記のシミュレーションは、年率5%が20年間継続していることを前提としているため、実際の株式投資信託の積立投資の成績とは大きく異なる。しかし、ゼロコンマ以下の信託報酬率の違いであっても、バカにできない差が出ることを改めて認識したい。

 このような信託報酬率が投資成果に与える効果については、もとより分かっていたことだ。投資信託を選ぶ判断基準として、インデックスファンドを選ぶ場合は、信託報酬率に注目し、低い方を選ぶようにしたいというアドバイスが一般的に行われてきた。しかし、信託報酬率とは、運用会社にとっては売上高に相当する。「報酬率が低い方が投資家のメリットになるものの、自ら進んで引き下げたくはない」というのが本音だろう。「米国等と比較して投信の家計への普及が進まないのは、信託報酬率が割高であるため」という指摘があっても、なかなか信託報酬率の引き下げは進まなかった。

つみたてNISAだからこそ、競うように信託報酬が低下

 つみたてNISAの採用ファンドの信託報酬率は、競うように引き下げが進んだ。そのきっかけのひとつは、「制度として投資コストが低い」という特長を持たせたことだろう。「国内インデックスファンドの信託報酬は0.5%以下」と定められたことで、競争上、「より低く」という心理が運用会社に働くことになった。

 そして、「積立で20年」という長期の継続運用が期待されることが、運用会社に信託報酬引き下げを容認させるインセンティブになっている。たとえば、信託報酬が年0.1296%の場合、毎月3.3万円の積立を1年間行って39.6万円になっても、そこから得られる信託報酬は513円でしかない。ところが、順調に積立投資が進み、20年後に1300万円の資産残高になった場合、1年間で得られる手数料率は1.68万円に拡大している。しかも、20年間にわたって取引が継続されていれば、累積で15万円の手数料が獲得できる計算だ。(信託報酬は、運用会社と販売会社、資産管理会社で分け合うため、運用会社の手取りは手数料総額の半額以下になる)

 1000万円の資金を信託報酬率1%、販売手数料1%で購入してもらえれば、販売に関わる手数料は1年間で20万円になる。古い投信販売の考え方は、資産家に次から次へと新しい商品を紹介し、販売手数料・信託報酬をできるだけ多く稼ぎ出そうというものだった。顧客は、多少でも利益が上がると、新しい商品の案内を受け、言われるままに商品を乗り換えていたため、自分の資産は一向に増えないという不満を抱えていた。結果として、投資信託の平均保有期間は2年~3年と短く、「投信は儲からない」というイメージだけが残ってきた。

 つみたてNISAは、「投信は儲からない」というイメージの払しょくも期待される。販売手数料はゼロ、かつ、信託報酬は低率と、投信にかかる費用(必要コスト)を徹底的に低くしてある。1年間にかかるコストが投資資産額の2%から0.13%に低下すれば、それだけ儲かる可能性は高まる。しかも、リスクを抑えて着実に資産を増やすための手法とされる長期・分散・積立投資という資産形成の王道で継続投資する。「続けていたら、知らぬ間に大きな資産ができていた」という結果につながりやすい投資方法だ。

 今に伝わる近江商人の経営哲学に「三方よし」という考え方がある。「売り手によし、買い手によし、世間によし」を示し、商売が成功する秘訣とされるが、つみたてNISAの対象となっている投資信託は、信託報酬を大幅に引き下げたことによって、「三方よし」を実現している。買い手は、コスト低減で直接メリットを受けるが、売り手は顧客満足度を高め、これまでより多くの顧客を獲得するチャンスが広がる。そして、「世間」は、つみたてNISAの実施者が増えることによって、「年金2000万円不足問題」等でクローズアップされている老後の生活不安が低下する。

 折から、世界の株価が不安定になっている。アメリカの著名な投資家であるジョン・テンプルトン氏が言った「相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」という言葉に照らせば、「悲観」が蔓延しているようにみえる。不安定な相場の時こそ、積立投資の好機だ。無理のない資金で、まず一歩を踏み出してみてはどうだろう。

【関連情報】
つみたてNISAとは(最下段に信託報酬率の比較表)
つみたてNISA対象ファンド一覧
つみたてNISAが1年間で100万口座のペースで浸透、投信業界に変革を促す契機に

最新記事

つみたてNISAトップページへ>>